A02班の実験で得られたデータは逐次A03班に送り、細胞環境場で濃度概念がどのような分子数のオーダーで出現するのか、また分子数の離散性がどのような新しい概念を創出するのかを、分子のコヒーレンス性を取り込んだ少数分子化学反応ネットワークを生命動態データから掘り起こすことを通して論じていきます(冨樫、小松崎)。上記実験データ解析と並行して、反応速度定数の環境場依存性や反応速度定数そのものの成立の可否など、従来、暗黙裡に前提とされていた化学反応理論を多角的な観点から見直し、細胞内の化学反応を表現できる理論モデルを検討・構築します。また、その理論モデルをもとにin silico実験を行い、得られた結果からウェットでの再構成実験の指針を立てて実行し、理論モデルの妥当性・有用性を検証します(今田、石島、前島、上田、冨樫、小松崎)。また、少数分子反応のモデルとして人工膜への再構成が可能なバクテリアのべん毛構成タンパク質の発現制御機能を有する基質タンパク質輸送システムを取り上げ、生体分子複合体における構成タンパク質の“数の制御”の観点で解析を行い、理論構築にフィードバックします(今田、南野、内橋)。
細胞では、分子数が1個から数万個と多種多様な成分が階層的に関与しあっています。分子が数~数十個程度になると「数」の離散性が顕著となり、フィードバック回路等の動作不安定が誘発されます。一方、こうした少数分子の離散性が、システムの可塑性・適応性をもたらす重要な役割を果たす可能性も示されています。本研究では、少数分子性・階層性に着目し、1分子計測データなどから、背後に存在する階層をつなぐ高次反応ネットワークおよび分子の少数性・離散性を抽出・評価しつつ、生命システムの特質である高い動作安定性(頑健性)と適度な動作不安定性(可塑性・適応性)の両立のメカニズムを定量的に予測・検証することが可能な、新しい理論と汎用な解析基盤技術を開発します。
氏名 | 機関 | 専門分野 | 役割分担 | |
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研究分担者 | ||||
小松崎 民樹 HP |
北海道大学・電子科学研究所 | 非線形数理科学 | 生命の階層性解析基盤の開発 | |
連携研究者 | ||||
李 振風 HP |
北海道大学・電子科学研究所 | 非平衡統計物理 | 非平衡統計力学に関する助言 | |
寺本 央 HP |
北海道大学・電子科学研究所 | 数理理論化学 | 階層間の非断熱性理論開発への助言 | |
新海 創也 HP |
広島大学・理学研究科 | 非平衡統計物理 | 細胞内ダイナミクス解析に関する助言 | |
Holger Flechsig HP |
広島大学・理学研究科 | 理論生物物理学 | 分子機械のモデリングに関する助言 |
多機能性を持つ分子で構成され、各々が少数の分子のターンオーバーによって機能する細菌のべん毛タンパク質輸送システムを再構築します。システム構成要素の構造、数、種類、エネルギー源に様々な操作を加えてシステムが構造変化する様子を観測することで、タンパク質複合体の構成サブユニットが離合集散(ターンオーバー)を繰り返しながら、頑健に機能する機構や輸送システムの作動機構、基質タンパク質の個数をモニターしながら発現系にフィードバックする機構の解明を目指します。
氏名 | 機関 | 専門分野 | 役割分担 | |
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研究分担者 | ||||
内橋 貴之 HP |
金沢大学・自然科学研究科 | 工学 | タンパク質複合体の計測/解析 | |
連携研究者 | ||||
竹内 昌治 HP |
東京大学・生産技術研究所 | マイクロ/ナノデバイス | 人工膜システム/MEMS技術の提供 | |
南野 徹 HP |
大阪大学・生命機能研究科 | 遺伝学 | タンパク質変異体作成/機能解析 |